Bear-Garden "love is sweet suicide" (2005)


たとえばアイドルポップスのように、完成度の高さよりも、その不完全さ、拙さを愛でるという態度は、日本独特とまでは言い切れないにしても、ほかの国の音楽ジャンルにはなかなか見られない感性のように思います。
そして、こうした日本的感性にもっとも近いものを持つ国はタイなんじゃないか。ネコ・ジャンプなんかを聴いてるとそう思うのです。
そしてそのタイで見つけたのが、このBear-Gardenというユニット。JuneことSomsiri Sangkaew という1976年生まれの女の子がひとりでやっているエレクトロ・ポップのユニットであります。サウンドはローテクでチープ。歌声もほわほわとしていて、あらゆる面で隙だらけなのだけれど、そこがなんともいえずいいのです。拙さの美といいますか、そのあたりはかなり日本的(特に下北沢あたりの)な感性に近いものを感じます。
実際、彼女は2006年には3ヶ月ほど日本に滞在してライブをやったこともあるようなので、日本でも一部では知られているようです。現在は5thアルバムの制作中で、その中には日本語で歌った"rokugatsu"という曲もあります。この日本語の拙さがまたいいんだこれが。

"rokugatsu"の試聴はmyspaceで。
http://www.myspace.com/beargardenroom
動画は2005年のアルバム"Love Is Sweet Suicide"から"Come with me"。

次は1stアルバムの"La La is Love"という曲をYMCKがリミックスしたバージョン。オリジナル版よりゆるさが薄れて隙がなくなった感じ。

Huong Thanh & Nguyên Lê "Fragile Beauty" (2007)


フン・タンはサイゴン生まれ、フランス在住のベトナム人女性シンガー。同じくフランスで活躍するベトナム人ギタリスト、グエン・レとのコラボレーションでこれまで4枚のアルバムを制作していますが、グエン・レの名前がアーティスト名に表記されたのは昨年のこのアルバムが初めてです。
彼らが創り出す音楽は、ベトナム伝統音楽をベースにして、エレキギターや電子楽器を用いたジャズ・フュージョンを、まさに融合させたもの。伝統音楽と西洋音楽を融合させた音楽は山ほどありますが、これほどまでにぴったりはまっているケースも珍しいでしょう。洗練されたエレクトリックなアレンジに、たゆたうように流れる声の響き。アジアの繊細な美しさを感じさせる名盤です。フランス在住の日本人琴奏者みやざきみえこも参加しております。
動画はアルバムタイトルと同じ"Fragile Beauty"という曲です。この動画は埋め込みができないので、リンク先で見てください。
http://jp.youtube.com/watch?v=4o9psdo86x0

Rokia Traoré "Tchamantché" (2008)


これまでにもマリ共和国の音楽はいろいろと紹介してきましたが、その中でも特にアフリカの柔らかさ、優しさが感じられて気に入っているのがロキア・トラオレの音楽です。
ロキア・トラオレは1974年生まれのシンガーソングライター。父親が外交官だったためアルジェリアサウジアラビア、フランス、ベルギーなど各地を旅して過ごし、さまざまな音楽文化の中で成長したのだとか。そのせいか彼女の音楽は、ンゴニ(4弦の小型ギター)、バラフォン(共鳴用にひょうたんがついた木琴)、ギタ(半割りのひょうたんをスティックでたたく楽器)などアフリカの民俗楽器を多用しながらも、アフリカらしい素朴さというよりは、むしろ知的で洗練された雰囲気が感じられます。
動画は、今年5年ぶりに出た4thアルバムの中から"Dounia"のビデオクリップ。やさしくしなやかな印象が強かったこれまでのアルバムとは違い、だんだんと貫禄が加わってきた感じです。これはこれで素敵なんですが、軽やかな初期作品の方が好きかなあ。


http://www.myspace.com/rokiatraore

Белая Гвардия "За Два Часа До Начала Лета" (2000)


Flёurが好きならこれも聴いてみたらどう? とlast.fm様に勧められたのがロシアのこのグループです。バンド名はビェーラヤ・ グヴァールヂヤと読みまして、意味は「白衛軍」。ロシア革命後にボルシェヴィキ政府に対して反乱を起こした反革命勢力のことです。『巨匠とマルガリータ』で有名な作家ミハイル・ブルガーコフに同じタイトルの長篇があり、そのタイトルから採られた名前とのこと。
彼ら自身は「センチメンタル・ロック」と銘打ってるんですが、これはどう考えてもロックではないでしょう。60〜70年代のフランス歌謡曲とか、70年代日本の叙情派フォークとかそんな感じです。私としては嫌いな音楽ではないんですが、2000年代に入ろうという時代の音楽としては、これはいくらなんでも時代錯誤的すぎるような気もします。時代に敢然と背を向けているところが「白衛軍」たるゆえんなんでしょうか。
ユーロビート系のダンスミュージックばかりが目立つロシアポップス界ではまったくの異端といっていいバンドですが、93年の結成以来10枚以上のアルバムが出ているようなので、一定のファンはついているようです。
リーダーでボーカルを務めているのはゾーヤ・ヤシェンコという女性です。なんとなく谷山浩子っぽいと思ったんですが、ストレートの黒髪が似てるだけかも。フルートの男性はインパクトありすぎ。

Berrogüetto "Viaxe por Urticaria" (1999)


ベログエトは1996年に結成された、スペインのガリシア地方を代表するケルティック・トラッドバンド。バンド名のベロは「叫ぶ」という意味で「グエト」はゲットー、つまり「ゲットーの叫び」というなかなか社会派な名前を持つバンドです。
"Viaxe por Urticaria"は1999年に発表された2ndなんですが、これがなかなかいいアルバムなのですよ。アコーディオンフィドルバグパイプなどの楽器をメインに、曲によっては女性ボーカルが入るという、いかにもケルト音楽らしい構成なのですが、全体に漂うからりとした明るさはスペインならでは。曲によってはアフリカやアラブを思わせるパーカッションも入ったりしてます。
動画はGuadi Galegoの力強いボーカルが印象的な"Fusco"という曲。ケルトとラテンの血が混じり合って生まれた傑作です。

http://www.myspace.com/berroguetto

Bengü "Gezegen" (2008)


トルコという国は意外にもセクシーアイドル系の女性歌手が多い国で、本日紹介するベンギュもその一人。1979年生まれのポップシンガーであります。トルコの歌手の中には、欧米のロックやポップスと変わらないような曲を歌っている歌手もいるんですが、ベンギュの曲はトルコっぽさが濃厚で、日本人の聴き手にはたいへんエキゾチックに感じられます。
きゃしゃでかわいい見た目と、低めでドスの効いた声のギャップにちょっと違和感を感じるんですが、私が聴いた範囲のトルコポップスには低い声の女性歌手が多いので、トルコではこういう声が好まれるのかもしれません。
動画は、最新のアルバムから"Gezegen"。Serdar Ortaç(セルダル・オルタチ)という人気シンガーソングライターが作詞作曲を手がけております。

あと、このアルバムには入ってませんが、水着姿がセクシーなので"Korkma Kalbim"という曲のビデオクリップも紹介。なぜ新スター・トレックピカード艦長の声から始まるのかは謎。

Руслана "Амазонка" (2008)


Руслана(ルスラナ)は1973年生まれ、ウクライナで絶大な人気を誇るポップシンガーであります。アマゾネス風のパフォーマンスが売りで、2004年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストでは"Wild Dance"という、タイトルそのまんまのワイルドなダンスポップで優勝。ウクライナに初の栄冠をもたらしました。4年ぶりのアルバムになる"Амазонка"(Amazonka)でも、タイトルやジャケットからわかるとおりアマゾネス路線は健在で、ワイルドなダンスミュージックを聴かせてくれます。
絶大な人気があるというのに、なんで4年もオリジナルアルバムがでなかったかというと、それはウクライナの政治情勢と関わりがあります。2005年に守旧派大統領候補の選挙違反疑惑で始まった「オレンジ革命」で、ルスラナは改革派のヴィクトル・ユシチェンコを支持。支持集会でヒット曲を歌うなどして、出直し大統領選挙でのユシチェンコの勝利に一役買ったのです。この功績と抜群の知名度を買われて、2006年春の総選挙ではユシチェンコ率いる政党「われらのウクライナ」から立候補し国会議員に。しかしウクライナの政界といえば魑魅魍魎はびこる混沌とした世界。混乱の続く政界に嫌気がさしたのか、2007年夏に期限前議会選挙が決まると早くも議員を引退、ふたたび音楽に専念することになったのでした。
動画はアルバム3曲目"Ми будемо перші"の、ウクライナ軍全面協力によるビデオクリップ。戦ってます。

続いてもうひとつ。こちらはSFタッチのビデオクリップで、"Дика енергія"(Wild Energy)という曲。ロシアのSF作家ディアチェンコ夫妻がルスラナをモデルにして書いた"Wild Energy.Lana"というSFファンタジー小説とのタイアップ曲だそうです。