Various Artists "Lullabies from The Axis of Evil" (2004)


今回は国名をタグにすると、タグがやたらと長くなってしまうので、「その他」タグを初設定。
悪の枢軸からの子守歌」という、なんとも強烈なタイトルのアルバムですが、アルバムのコンセプトもまさにそのタイトル通り。イラン、イラクパレスチナ、シリア、アフガニスタン北朝鮮キューバといった、ブッシュ大統領に「悪の枢軸」と名指しされた国々の女性歌手にア・カペラで子守歌を歌ってもらい、それをアレンジして西側諸国の女性歌手とのデュエットに仕立てた作品が14曲収められています。デュエットの相手として参加しているのは、アメリカ、メキシコ、ニカラグア、イギリス、スウェーデンデンマークなどさまざまな国の女性アーティストたち(詳しくは公式ページを参照)。
アルバムの意図はあからさますぎるほどに明らかなんですが、1曲目、アラブの旋法で歌われるイランの歌にかぶさるように、"You, My Destiny〜"とイギリスの歌手が歌い始めたときの強烈な違和感をどう表現したらいいものか。ほかの曲も似たり寄ったりで、西洋音楽に慣れた我々がひっかかりを覚えるような異文化の香りは見事に殺されてしまい、ギターにドラムス、シンセも加わって、口当たりのいい西欧風でアンビエントな楽曲に仕立て上げられているのです。
これでは反ブッシュを謳っているようにみえて、結局やっていることは第三世界に西欧流を押しつけるアメリカ流のグローバリズムとまったく違いありません。しかも、反戦、平和を訴えているだけブッシュよりたちが悪いともいえます。
このアルバムがはからずも暴いているのは、さまざまな文化を背負った世界の音楽をパッチワークのようにつぎはぎした、いわゆる「ワールドミュージック」の暴力性です。そして、こうして世界の音楽を聴いている自分は、いったいどういう地点にいるのかということ。ふだんはあまり気にしていなかったそうしたことを、いろいろと考えさせられるアルバムであることは確かで、そういうきっかけを作ってくれたという意味ではいいアルバムといえるでしょう。
アルバムを企画したのはノルウェーの音楽プロデューサーErik Hillestadで、作曲・アレンジは同じくノルウェーのギタリストで作曲家のKnut Reiersrud。Hillestadは自ら「悪の枢軸」諸国をまわってそれぞれの歌を録音してきたのだとか。
試聴はmyspaceで。
http://www.myspace.com/lullabiesfromtheaxisofevil

Global Kryner "Krynology" (2005)


オーストリアやドイツでポピュラーな伝統音楽に「オーバークライナー」というスタイルがあります。アコーディオンクラリネット、トランペット、ギター、バリトン・ホルン(ユーフォニウム)にボーカルを加えた6人編成で民謡を演奏するというもので、チロルっぽい民族衣装を着て酒場などで演奏しているような音楽です。
このオーバークライナー、一見伝統的な民族音楽みたいな顔をしてますが、1950年頃に創り出されてヒットしたのが始まりだというから、別にそれほど長い歴史があるわけではありません。まあ、それほど歴史のない日本の演歌が「日本人の心の歌」などと言われてるのと同じようなものでしょう。
さて、この田舎っぽい音楽の編成そのままで、世界的なヒット曲をカバーしてみよう、という無茶な試みをしたのがこのバンド。バンド名もオーバークライナーをもじって「グローバルクライナー」。カバーされている曲はマドンナ"Like A Virgin"、トム・ジョーンズ"Sex Bomb"、ビリー・ジョエル"Honesty"、ブリトニー・スピアーズ"Oops, I did it Again"などなど洋楽のヒット曲ばかり。いわばオーストリア版のDolapdere Big Gangみたいなバンドです(特に"Sex Bomb"は両バンドがカバーしているので聞き比べると面白い)。
演奏のレベルはかなり高いです。しかも女性ボーカルはポップス風の歌い方をしていて、普通にかっこいい。それでいて、ドラムレスで管楽器中心のバンドの響きはなんとも脳天気。さらにいきなりヨーデルが入ってチロル風になったりと、かっこいいのかダサいのかさっぱりわからないミスマッチ感覚が強烈なバンドであります。
"Krynology"は2ndアルバムで、動画はその中から"Y Asi"。ユーロヴィジョン・ソングコンテスト2005に出場したときの映像です(準決勝で敗退)。

http://www.myspace.com/globalkryner

Natalia Barrionuevo "Sueños" (2000)


これもまたかわいいジャケットに(以下略)。
1978年ラ・リオハ生まれのアルゼンチン・フォルクローレ歌手の2ndアルバムです。英語の経歴が載っているサイトすらほとんどないので情報があまりないんですが、動画を見ていただければその実力のほどがわかるかと。スペイン語サイトの機械翻訳などでわかった限りでは、1995年のフォルクローレ・コンテストでメルセデス・ソーサ(アルゼンチン・フォルクローレのものすごくえらい人)に認められて歌手活動を始めたらしいです。
繊細な表現力の点ではメルセデス・ソーサに及ばないのは当然にしても、歯切れのいい歌いっぷりが若々しくていい感じです。
日本人がフォルクローレと聞いて思い浮かべるアンデスのスタイルとはだいぶ違うんですが、ギターと太鼓(ボンボ)を使い、ケーナチャランゴといったいかにもフォルクローレらしい伝統楽器はほとんど使わないのが、アルゼンチンのフォルクローレの特色だとか。
9曲目の"De la infancia a mi casa"という曲がたいへん美しくて気に入ったんですが、試聴できるサイトがないのが残念。
動画は"Alma de rezabaile"。チャカレラというリズムの曲で、御大メルセデス・ソーサとデュエットしています。

Марта "Дыхание" (2004)


ロシアやウクライナにはセンチメンタルなダンスポップを歌う女性歌手が多いんですが、Марта(マルタ)もそのひとり。マルタはウクライナ西部のチェルニウツィー出身のポップシンガーで、これがデビューアルバムです。
ユーロビート風の打ち込みを多用した、ちょっとくどいくらいのアレンジが多いロシアに対して、マルタは同じダンスポップでも比較的アコースティック寄り。私としてはこっちの方が好みかな。全曲にわたって、哀愁あふれるキャッチーなメロディがたまりません。
2006年には全曲自分で作曲したセカンドアルバム"Мне много не надо"をリリース。2007年にはリミックスCDが出たんですが、これはロシアのマーケットを意識したのかユーロビート風のアレンジになってます。しかも、そのジャケットがまたすごいことに。もう完全に透けて見えてますよ。実力あるんだから、ここまで露骨にお色気路線にしなくてもいいと思うんですが。
動画は"Цветок"(花)という、切なさ炸裂な一曲であります。

Wig A Wag "Wig A Wag" (2006)


フランスのケルト音楽をいくつかまとめて聴いたのですが、その中でももっともケルトらしくないバンドが、フランス中部のトゥールで結成されたWig A Wagというバンド。ブルターニュの音楽様式に、アラブ音楽やジプシー音楽の要素も取り入れ、かなり自由なダンス音楽を創造しています。北欧のガルマルナとか東欧のベシュ・オ・ドロムみたいなフォークロックに分類した方がいいかもしれません。
2006年に発表された4thアルバムはバンド名と同じタイトルで、Morgane Jiというインド洋のレユニオン島出身の女性歌手をボーカルに迎えたことでさらに国籍不明の謎の音楽になっています。こうしたケルトを特権化しないアイデンティティの希薄さは、ケルトアイデンティティの拠り所を求めるアイルランドスコットランドの音楽とは対照的です。
動画はアルバム1曲目の"E ti Lisa"のライブ映像。ケルトらしさを求めずに聴けばノリのいい楽しい音楽ですよ。

http://www.myspace.com/wigawag

Loreena McKennitt "Live in Paris and Toronto" (1999)


ケルティックな音楽を歌うシンガーは数多くいますが、特に神秘的で内省的な歌い手が1957年カナダ生まれのロリーナ・マッケニットです。1997年までに6枚のアルバムを発表しているのですが、いずれもたいへんな完成度の高さ。おそらくかなりの完璧主義者なのでしょう、どの曲を聴いても、ケルトエスニックが渾然となった音楽世界が、一分の隙もなく組み立てられています。その歌声はただ美しいというのではなく、聴き手の側にも緊張を求めるような厳しさがあります。音楽のすべてを自分でコントロールしたいためか、彼女のアルバムはすべて自身の個人レーベルQuinlan Roadから発売されています。
"Live in Paris and Toronto"は1999年に発表された2枚組のライブアルバムなのですが、実はこれは彼女の最後の作品になっていたかもしれないアルバムなのです。
1998年7月、婚約者のロナルド・リースが、弟と友人とともにボート事故で死去するという悲劇がロリーナを襲います。彼女はその衝撃から立ち直れず、ライブからもレコーディングからも遠ざかってしまったのです。そんな中で発表されたのが1998年4月と5月に行われたライブを収めたこのライブアルバムで、売り上げの300万ドルは水難救助のためのCook-Rees記念基金を設立するために使われました。
アルバムの構成は、ライブアルバムとしてはちょっと変わっていて、曲順も含めてひとつの作品という考えからか、1枚目には97年のアルバム"The Book of Secrets"の収録曲が曲順もそのままに収められています。ただし、同じ曲でもアップテンポになって2分以上短くなっているなど、ライブ盤の方が全体的にノリがよくなっていますが。
その後彼女は長らく沈黙していたのですが、2006年に9年ぶりのニューアルバム"An Ancient Muse"を発表。その後はアルハンブラ宮殿でライブを行うなど、精力的な活動を再開しています。一度でいいからライブを聴いてみたいアーティストの一人なんですが、日本にはなかなか来そうにないですね……。
動画はアルハンブラでのライブ映像で、曲はこのCDにも収められている"The Mummers' Dance"。

Djal "Répliques" (2006)


前回に引き続き、フランスのバンドです。
Djalは6人組インストゥルメンタル・バンド。ケルトっぽい曲を演奏しているのでてっきりブルターニュのバンドかと思ったら、フランス南東部ローヌ=アルプ地方のグルノーブル出身だそうです。Djalというバンド名はフランス語で"Du Jour Au Lendemain"(一夜のうちに、突然に)の頭文字。アコーディオン、ハーディガーディ、フルートなどのアコースティック楽器のほかベースギターも使っています(ドラムスはなし)。このアルバムは3枚目になるのですが、1stと2ndはライブ盤なので、スタジオ録音盤はこれが初めて。
曲はケルト風なものが多いんですが、中にはアラブ風の曲やジプシー風の曲もあったりします。こうした一種の無節操さが、地中海貿易で多文化を受け入れてきた南仏のバンドらしいところなのでしょう。
動画は"L'école des lucioles"という曲。この動画では立って聴いている人もいますが、観客の多くは踊ってます。フランスの伝統音楽ライブでは、やっぱり踊るのがデフォルトなんでしょうか。

次は2007年フィギュアスケートNHK杯で優勝したイザベル・デロベル&オリヴィエ・ショーンフェルダー組の演技の動画。使われているのがDjalの曲です。

http://www.myspace.com/djalmustradem