Loreena McKennitt "Live in Paris and Toronto" (1999)


ケルティックな音楽を歌うシンガーは数多くいますが、特に神秘的で内省的な歌い手が1957年カナダ生まれのロリーナ・マッケニットです。1997年までに6枚のアルバムを発表しているのですが、いずれもたいへんな完成度の高さ。おそらくかなりの完璧主義者なのでしょう、どの曲を聴いても、ケルトエスニックが渾然となった音楽世界が、一分の隙もなく組み立てられています。その歌声はただ美しいというのではなく、聴き手の側にも緊張を求めるような厳しさがあります。音楽のすべてを自分でコントロールしたいためか、彼女のアルバムはすべて自身の個人レーベルQuinlan Roadから発売されています。
"Live in Paris and Toronto"は1999年に発表された2枚組のライブアルバムなのですが、実はこれは彼女の最後の作品になっていたかもしれないアルバムなのです。
1998年7月、婚約者のロナルド・リースが、弟と友人とともにボート事故で死去するという悲劇がロリーナを襲います。彼女はその衝撃から立ち直れず、ライブからもレコーディングからも遠ざかってしまったのです。そんな中で発表されたのが1998年4月と5月に行われたライブを収めたこのライブアルバムで、売り上げの300万ドルは水難救助のためのCook-Rees記念基金を設立するために使われました。
アルバムの構成は、ライブアルバムとしてはちょっと変わっていて、曲順も含めてひとつの作品という考えからか、1枚目には97年のアルバム"The Book of Secrets"の収録曲が曲順もそのままに収められています。ただし、同じ曲でもアップテンポになって2分以上短くなっているなど、ライブ盤の方が全体的にノリがよくなっていますが。
その後彼女は長らく沈黙していたのですが、2006年に9年ぶりのニューアルバム"An Ancient Muse"を発表。その後はアルハンブラ宮殿でライブを行うなど、精力的な活動を再開しています。一度でいいからライブを聴いてみたいアーティストの一人なんですが、日本にはなかなか来そうにないですね……。
動画はアルハンブラでのライブ映像で、曲はこのCDにも収められている"The Mummers' Dance"。