SACRA "ついのすみか" (1991)


これまでこのブログでは「必ず試聴できること(可能な限りYouTubeに動画があること)」を条件に世界の音楽を紹介してきたのだけれども、今回に限りその掟を破ります。試聴サイトはありません。申し訳ない。
このアルバム、私が世界の民族音楽を聴き始めた頃に聴いて心惹かれたアルバムで、今でもたいへん気に入ってときどき聴いている作品なのです。
歌われている曲は韓国や中国、インドネシアなどアジアの民謡をアレンジしたもので、歌詞の舞台となっているのもモンゴルやチベット雲南などアジアの内陸部。エキゾチックな異国を舞台にした童謡のような曲を、透明感のある優しい声の女性ボーカルが歌っていて、たいへんさわやかなアルバムになっています。
ただ、よく歌詞を聴いてみるとわかってくるのは、アルバム全体のテーマが「死」だということ。ボーカルの小畑香さんは「ヒマラヤの山の上骨をうずめに行こう」とか「うれしいな涅槃は近い」といった歌詞を子供のように無邪気に歌っているし、だいたいアルバムタイトルからして「ついのすみか」。とはいっても死といってイメージするような暗さはまったくなくて、東洋的な涅槃とはこんなところなんじゃないかと思うような伸びやかで清澄な音楽なのです。
残念ながらsacraのアルバムはこれ一枚しかなく、素敵な小畑香さんの歌声もこのアルバムでしか聴けません。このアルバムもとっくに廃盤になっていますが、私同様このアルバムを大切に思っている人は少数ながらいるらしく、ヤフオクなどでは高値で取り引きされているようです。

Claire Pelletier "Galileo" (2000)


前回はギリシャのロリーナ・マッケニットだったので、今回はケベックのロリーナ・マッケニット。我ながら安直な紹介の仕方だとは思うのですが、実際そうとしかいいようのない作風なんだからしょうがない。
クレール・ペレティエは1959年生まれのカナダの歌手。ケベック出身なので歌詞はすべてフランス語です。特にアイリッシュの血を引いているわけでもなく、なぜケルト音楽をやっているのかはよくわからないのですが、音楽はロリーナよりもうちょっと伝統的なケルト音楽寄り。その一方でポップス風の軽さもあって、クラナドなどのモダンなアイリッシュ・ミュージックに近い感じです。こういう音楽ならアイルランドにもよくあるので、ちょっと平凡かな……という気もします。
動画はアルバムタイトルと同じ曲名の"Galileo"。なんでガリレオなのかは、悲しいことに歌詞がわからないので定かではありません。

Elisa Vellia "Voleur De Secrets" (2004)


エリサ・ヴェリアは、ギリシャアテネ出身でイギリスでケルティック・ハープを学び、現在はフランスで活動しているシンガー兼ハープ奏者です。
ケルト音楽と地中海音楽が混じり合ったようなゆったりとした神秘的なメロディと、ギリシャ語のエキゾチックな響きが心地よいのですが、どうもこの手のケルティックフュージョン音楽はロリーナ・マッケニットの呪縛から脱することが難しいようで、ちょっとロリーナに似すぎているのが残念なところです。悪くはないんですが、なんとなく物足りないというか。
youtubeに動画がないので、試聴はmyspaceで。myspace videoには動画があります。
http://www.myspace.com/elisavellia

Erie "Prayer" (2001)


河井英里さんが逝去されました。
私は1993年の『ワーズワースの冒険』のテーマ曲「シャ・リオン」でファンになって以来、ぽつぽつと彼女の音源を集めてました。
オリジナルアルバムは1997年の『青に捧げる』と"Prayer"の2枚だけで、最近は『ARIA』挿入歌や『うたわれるもの』エンディングテーマなどアニメ関係の仕事が多かったのですが、いずれも伸びがよくて透明感のある歌声が絶品。声だけでひとを感動させることのできる歌い手はそういるものではありません。
『アニマージュ』シリーズの2枚のアルバムでは「約束はいらない」「炎のたからもの」などアニメソングの名曲をアレンジして歌っていて、特に多重録音による「残酷な天使のテーゼ」は秀逸な出来です。
でも、彼女の曲の中でいちばん有名な曲はなんといっても「シャ・リオン」でしょう。ヨーロッパの民族音楽風のメロディに、全編造語で綴られた歌詞を載せた曲で、作曲は大島ミチルさん。「式部」名義の『大英博物館』や「ICO」のテーマソングなど、民族音楽の要素を取り入れた曲を多数手がけている方です。
"Prayer"は、2001年にErie名義で発表されたアルバムで、「シャ・リオン」のセルフカバー版も収められています。
動画はオリジナル版の「シャ・リオン」。

ご冥福をお祈りいたします。

Lucía Ceresani "Huellas del sur" (2007)


ルシア・セレサニと読めばいいんでしょうか。アルゼンチンのフォルクローレ歌手です。全然情報がないので経歴などはさっぱりわからないんですが、非常に美しくよく通る歌声の持ち主です。
フォルクローレというと、にぎやかな伴奏に途中で合いの手がはさまったりして、悪く言えば垢抜けない演奏も多いんですが、彼女は、澄んだ美声に伴奏はほぼギター1本のみというシンプルなスタイル。抑制のきいた哀感にあふれててこれが素晴らしい演奏なんですよ。いいアルバムです。
動画は"Capitán de la Espiga"という曲。

Abnoba "Vai Facile" (2006)


全然聞いたこともないバンドだしジャケットもイマイチだし、全然期待してなかったんですが、聴いてみたらこれが実によくてびっくり。
Abnobaはイタリアの6人組フォーク・ロックバンドで、これがデビューアルバム。女性ボーカルを迎えている曲もありますが、ほとんどはインストゥルメンタルで勝負してます。バグパイプや管楽器も使っているし、音としてはブルターニュのダンスフォーク・バンドに近い感じです。
アブノバというのは、ケルト神話に登場する森の女神の名前だそうなのですが、演奏しているのはケルト音楽かというと必ずしもそういうわけではなく、ブルターニュやアルプス、バルカンやクレズマーなど汎ヨーロッパ大陸的な伝統音楽を、切れ味鋭い斬新なアレンジで演奏してます。特に伝統音楽ではあまり使うことのないピアノを効果的に使っているのが珍しいところ。
イタリアというとなんとなくフォークロックには縁遠いイメージがあったので、こんなバンドがあったことには驚きました。次のアルバムにも期待したいところです。

しかし、myspaceページの低予算ホラー映画っぽい背景写真はいったいなんなんでしょうか(笑)。
http://www.myspace.com/vaifacile
動画はライブの様子。

Shigure "Kisetsu o koete" (2007)

本日はジャケット写真なしです。
前回の"Bear-Garden"に引き続き、日本語の歌を歌う外国人つながりで。ドイツはベルリンのジャパニーズ・フォーク・ユニット、その名も"Shigure"です。ここでフォークと言っているのは、民謡という意味でのフォークではなく、日本でいう「フォークソング」のこと。
ベルリンなのにジャパニーズ・フォークとはどういうことかというと、説明よりもとにかく聴いてみてください。
http://www.myspace.com/shiguremusic
はい。聴きましたか? おわかりいただけたでしょうか。まさにジャパニーズ・スタイルのフォークソング。私はなんとなく「ベルリン忠臣蔵」という言葉を思い出しました。特に意味はないんですが。
この"Shigure"というユニット、たまたまmyspaceで見つけたのですが、それ以外の情報はほとんどありません。作詞、作曲、歌ともにKaiと名乗っているドイツ人の若者がひとりでやってるようです。写真からすると20代前半くらいでしょうか。好きな音楽は"Quruli, Yuzu, Hirakawachi 1-choume, KAB, Kobukuro, Bump of Chicken"とのこと。こんなドイツ人青年がいるとは! 日本語で作詞できるくらいなので相当日本語は堪能なのでしょうが、来日経験があるのかどうかもよくわかりません。
残念ながら、詞にはところどころ意味のとりづらいところがあります。たとえば「季節を越えて」という曲には、

小鳥歌う白空に浮かぶ
アフリカに引っ越す寒くなるから
今も誰かと気楽な家に引っ込んでいる
愛しい人と一緒お茶を飲む
秋の空の下長い散歩をする
僕は君と腕をからめて歩いている

という詞があるんですが、主語のない文が多くてどうも情景が想像しづらいものがあります。でもこれが、英語版を読むとようやく意味がわかるのです。

Little birds sing while floating in the sky
They move to Africa because it became cold
Now also people stay in their cozy homes
Drinking tea together with the person they love
Long walks under the autumn sky
I’m walking with you arm in arm

ちょっと虚をつかれたのが、「アフリカに引っ越す」のが「小鳥」だということ。日本に住む私たちには、渡り鳥がアフリカに渡るという発想がないので、これは意外でした。このへんはヨーロッパ人ならではの感性でしょう。
こういうフォークソングは、日本なら路上演奏でもおなじみのありふれた音楽ですが、ドイツで果たして理解されるのかというと、たぶん無理なんじゃないかなあ、と思います。詞も日本語では誰にもわかってもらえないだろうし。それでも遠いドイツの地であえて日本語フォークを歌うKaiくんの孤高な姿には深い感動を覚えるのです。