Gadalzen "Chromatophonies" (2002)


これまで、ケルトやスペイン、北欧、東欧などのヨーロッパ民族音楽を紹介してきましたが、こうした民族音楽が盛んな地域は地理的にはいずれもヨーロッパの中でも周縁部。フランスやイタリア、ドイツといったヨーロッパ中央部は、クラシック音楽の印象が強いせいか、どうも民族音楽のイメージは薄い感じがあります。
とはいっても、もちろんこれらの国にも民族音楽はあります。最近聴いてみて面白かったのが、フランスのオクシタン・トラッドという音楽です。オクシタンとは、トゥールーズを中心とする南フランス一帯の地域のこと。このあたりは古くからフランス語とは異なるオック語という言語が話されており、中世からトルバドゥールによる宮廷詩など独自の文化が花開いていた地域ですが、13世紀にはカタリ派と呼ばれる信仰が異端とされ、アルビジョワ十字軍の攻撃を受けてフランスの支配下に。1881年には政府により学校でのオック語の使用が禁止されたため、現在ではオック語話者は高齢化しているのが実情です。ただし、最近ではオクシタン文化復権運動が進み、伝統音楽を演奏するバンドも数多く出てきたというわけ。このあたりは、イギリスやアイルランドにおけるゲール語の事情とよく似ています。
Gadalzenはトゥールーズ出身で、オクシタンのフォークロックを演奏するバンド。2002年のこのアルバムが1stアルバムです。聴いてみると、ケルト風なところもあり北欧風でもあるなかなか不思議な音楽です。プログレッシブ・ロックや現代ジャズ、ピアソラマックゴールドリックファーランダーズピーター・ガブリエルといったアーティストに影響を受けたというので、ごった煮的な印象はそのあたりからきているのでしょう。かなりロック色が強いので、これがオクシタン・トラッドを代表するものとはいえませんが、フランス音楽のイメージをくつがえす面白い音楽なのは確かです。

動画は"Retira-te"という奇妙な曲。

http://www.myspace.com/gadalzen