Eduardo Paniagua "Cantigas De Toledo" (1995)


ヨーロッパの民族音楽の源流をさかのぼると、たどりつくのが中世音楽。まだクラシックというジャンルが成立する前の西洋音楽です。こうした音楽は写本という形で残されているのですが、その中でももっとも有名で多くの録音があるのが、13世紀スペインの「聖母マリアのカンティガ集」。編纂したのはカスティーリャ国王アルフォンソ10世です。
アルフォンソ10世は、レコンキスタの盛んだった時代の国王ですが、国政という面では業績はほとんどなく、Wikipediaをみても「聡明な父と違って軍事的には無能」だとか「「聖王」と讃えられた父王と較べるとあまりに暗愚な人物」などさんざんな言われよう。晩年も、次男に王位を奪われ、王位奪還を目論むも失敗して追放されてしまうというなんとも締まらない幕切れ。
統治者としては失格だったアルフォンソ10世なのですが、そのかわりにのめりこんだのは学問の世界。自ら多数の詩を創作し、法律、歴史、天文学、宝石、チェス、そして音楽と、あらゆるジャンルの書物を編纂。その功績をたたえアルフォンソには「賢王」の名が贈られています。言ってしまえば道楽息子、というか元祖オタク王なのですが、この王様のおかげで、後世のスペインには膨大な学問的知識が伝わることになったわけです。
さてその「聖母マリアのカンティガ集」には多くの録音がありますが、写本には数百篇という膨大な曲が収められているので何曲かを選んで録音するのが通例です。そんな中、初の全曲録音を目指して地道にCDをリリースし続けているのがスペインのエドゥアルド・パニアグア。やはり古楽演奏家で『古代ギリシャの音楽』など珍妙な刺激的なアルバムを出しているグレゴリオ・パニアグアの弟です。
こうした中世音楽はクラシック調に仰々しく演奏してもつまらないもの。その点エドゥアルドの演奏は素朴な味わいがあって生き生きとしてます。ただ単旋律の似たような曲ばかりなので変化を出すのになかなか苦労しているようですが。